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◇◆◇◆
カランコロン。
私は四度目のベルを鳴らした。
「いらっしゃい。待ってましたよ、りおさん」
今日もまた、お客さんは一人もいない。
「違いますよ。今日はもう閉店したんです」
私の考えを見透かしたか、カウンターの向こうのマスターは苦笑いを浮かべてそう言った。
涙でメイクが崩れ、泣き腫らしたこの顔を見ただけで、彼との間に私がどんな結論を出してきたのか、マスターにはすぐに理解できただろう。
それでも、それに対して何も言及してこない心遣いが、今の私にはありがたかった。
「えっとですね、今日もりおさんに来てもらったのにはちょっと理由がありまして」
そう言ってマスターは、同じ柄のコーヒーカップを二つ、カウンターの上に並べて置いた。
「りおさんに、試飲をしてもらいたいんですよ。新しくオープンする僕の店の、スタンダードとなるブレンドコーヒーのね」
もうちょっと待っててくださいよ、と言いながら、マスターはそそくさとコーヒーの準備を始めた。
その途端、広くない店内に充満し始めるコーヒー豆の香り。
だが、今までとはやはり香りが少し違うような気がする。
いやそれは、今までと違うブレンドだからという先入観から、そう感じてしまっているだけなのかもしれない。
いやいや、それはともかく。
「マスター、なんで私なんかに試飲を頼むんですか?コーヒーなんて全然詳しくないのに」
だが、その素朴な疑問に、マスターは思ってもみなかったような答えをけろりとした顔で返してきたのだ。
「なんでかって?それはね、りおさん。あなたが僕にとって、特別な人だからですよ」
「え?」
私は耳を疑った。
何か今、理解できない言葉を聞いた気がする。
「マスター、からかわないで下さい。私たち、まだ会って四日目ですよ?特別な人だなんて…」
「いえいえ、日数なんて関係ないんです。りおさんは僕にとって特別な人。四日目だろうが四年目だろうが、そのことに変わりはありませんよ」
そう断言して微笑むマスターに、私はただ、首を傾げるばかりだった。
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