異常を求めるひと

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 そうして私のこのささやかなる時は刻々と過ぎて行き、通常ならば私はすっきりとした気分で帰路に再び着けるのだ。しかし、今日はそうもいかなかった。   ――― 私の視界の端に、何か小さく黒い影があることに気が付く。看板の裏に遭ったために、パッと見ただけでは影に隠れていてはっきりと見つけることができなかったようだ。普段はこの公園に訪れるものなどそうはおらず、いるとしたら近所の子供たちや暇を持て余した老人くらいなもの。とはいえ、一度気になったことはしっかり確かめておかねば夜寝る前に気になってしまい、そのまま考え耽てしまって朝を迎えてしまうのが私の悪いところの一つなのだ。つまり、私はそれが何であるかを確かめに行きたい衝動に駆られ、立ち上がり、足を運ばせる。  それは、驚くべきものだった。大きさは15cmから20cm程度、抱き抱えるには丁度良いサイズ。真っ黒の毛並みに覆われているのだが、全身の様々な箇所に紅い斑点がぼつぼつと付いている。体はぴくりとも動いていない。それは紛れもなく ―― 私は確認した事を後悔した ―― 黒猫の死骸だったのだ。音を一つも立てずに横たわるその姿は、生を感じさせない。様子から察するにこれらの外傷が理由で失血死したと考えるのが一番妥当だろうか。私は動物医ではないから、その手のことに関してまったくの無知だ。推測が当たっているかどうかすら定かではないが、素人目でもそう思えるほどの傷の数々だったのだ。落下しただけではこれほどの数だけ傷が付くことはない。それに看板の裏に、まるで隠すように放置されていた点から考えても、これが何者かによる黒猫の死体遺棄事件、及び黒猫殺害事件と考えてまず間違いはないはずだ。  私は立ち上がり、ふむ、と一つ息を零す。黒猫には申し訳なさを感じつつもあるが、私は今、とてもわくわくしているのだ。
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