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ふと思い出す。
あんなことが無ければ、今も私はあの人の隣に居ることが出来たのだろうか?
<時には昔の話をー1ー>
私には両親が居なかった。
気付いた時には近藤さんという人の家に居て、勲さんがお兄さん代わりだった。
近所のミツバさんはお姉さんのような存在。
ミツバさんの弟の総悟くんと幼なじみの土方さんと銀さんとはよく遊んでた。
私は土方さんが大好きで。
でも小さい私はそれがどんな感情なのか分からなかったから。
だから土方さんとミツバさんが仲良く喋っているのを見て痛む胸の原因が全く分からなかった。
でも土方さんは私を妹のように思ってくれたからそれだけで良かった。
いつも仏頂面の土方さんが私に笑顔を向けてくれる。
その笑顔が私よりミツバさんに向けるものの方が優しいものだったとしても私は嬉しかった。
でもその笑顔はもう見られない。
それは異国と協定を結ぼうとする幕府と、それに反対する志士との戦争が始まった次の年。
私達が住んでいる所まで戦の火の手が迫ってくる前のこと。
あの日、私達は皆で遠くの神社に行った。
「土方さん、お揃いのお守り買って!」
「ん? あぁいいぞ」
「ふふ…二人共、仲が良いのね?」
「なっ…べつに仲が良い訳じゃねぇよ!!」
「…………」
本当は知ってた。
土方さんはミツバさんのことが好きだって。
それでも私は土方さんを独り占めしたかった。
ミツバさんが居なくなればいいのにと思ったことはあった。
そんなことを考える自分が大嫌い。
「あ、川がある」
「あら本当!」
神社の境内に流れる川。
それほど大きくはない川だけど流れは少し速い。
「…………」
こんなふうに何も考えずに進んでいけたらいいのに…
「流れは速いけど綺麗な川ね…」
「ミツバさん、あんまり近付かない方が…」
それは一瞬のことだった。
ぬかるんで足場の悪い川の淵に立っていたミツバさんが足を滑らせた。
「………っ!?」
咄嗟にミツバさんの手を掴んだけど幼い私がミツバさんの身体を支えられることは出来なくて…そのまま二人で川に落ちてしまった。
たまたま近くに居た銀さんが引き上げてくれたけど季節は冬。
恐怖と寒さで身体は震えていた。
そんな私に銀さんは苦笑しながら頭を撫でてくれる。
それがとても安心した。
しばらくして駆け付けた土方さんはミツバさんを見て、それから私を見て思いっ切り顔をしかめた。
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