第壱章 雷落とし

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 汗が先程の倍出てきた。頭の中にいる誰かが「どうしよう、どうしよう」と自分に責めてくる。早くなる鼓動。力の入らない全身。動けない今、意味を無くした手の中の御札。  涙がつう、と自分の頬を伝った。  幽霊が見える故の、この後何が起こるから分からない故の、とてつもない恐怖。  彼女の足が、少し曲がり。  そして、跳躍した。  刹那、突風が起こる。私に対して向かい風。  彼女はその風に乗り、桜吹雪と共に――私の方へ。  あまりの急展開に声も何も出ない。嗚咽も嘆息も悲鳴も何も何もかも、出したいのに、助けを請いたいのに、私には――何も出来ない。  破滅的絶望感。感じざるを得なかった。漢文で書くと不感不得。だからどうなんだよ、自分でも問い正したい。こんな事考えてる場合じゃない。でも下らない事を考えてなくちゃ、気が狂いそうだ。いっそ、狂い死にたい。死ねばいいのに。  でも、今の私には自虐する事と――運命をただただ委ねる事しか出来ないのだ。  あっと言う間に、私と彼女との距離が狭まる。  私の運命が終わるまで  三。  二。  い―― 「――波羅僧羯諦 菩提薩婆訶」
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