第壱章 雷落とし

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 因みに補足するが、これは、状況が“普通だったら”ではなく、私が“普通だったら”と言う意味だ。間違わないで。私はどんな状況下に置いても、自分の想いを偽る気はない。偽は疑を生む。人の信頼を失うやも知れぬ。  つまり、どう言う事か。  ――私は、霊が視えるのだ。  それに初めて気付いたのは、たったの四歳、田舎にある祖父の家に遊びに行った時の事だった。  祖父は農家で、家の敷地が広く、石膏で造られた蔵が一つあった。父と祖父に連れられて、その中に入ると、中に白い着物を着た若い女性が一人いたのだ。その人は、着物を右前に着ていて、私は思わず父と祖父にこう漏らした。『あの人、着物の着方間違えてる』と。  二人は目を見開き、互いを見合って、ぐるりと蔵の中を一周見渡していた。父は言った『誰もいないよ』。私は『そんな筈ない』と、再びその人がいた所に目を移す。  誰もいない。  その瞬間、悪寒が全身を走り抜けた。何とも言えない恐怖。ぐぅとも言えない不快感。私は直感した。 『あのひと、“ゆーれい”だったんだ』  ――才能と言えば才能であろう。けれど、良い意味合いで使われるそれを、私のこの望まれない“特別”に当てるのは、些か可笑しい気がする。  天性の異能、いや、異質。その方が皮肉混じりで良い感じ。能力でなく性質なのだ。上達するものでもないし、劣化するものでもない。衰えるなら衰えて、消えていって欲しい。  私が普通だったら――そう思わなかった日は一度もなかった。七夕でお願いをしても、サンタクロースにお願いしても、お寺や神社でお祈りしても、手の届かない不可能な願望。  ずっとずっと、自分の目を抉り出したい位、耳を芳一の如く引き千切りたい位、霊が視える事は私にとってストレスでしかなかった。
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