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「だった?それじゃあ今は違うってこと?」
里桜は俯いて話を聞いている春樹を気にかけながらもそう聞いた。
「ええ。今から10年前かなぁ。その時に、ふと能力封印者がどれだけいたのか集計する機会があってね。調べてみたらその子の名前が消されていたの。消去されたのは確か10月半ば頃。でも彼女が死んだのは8月頃よね。能力封印は本人の証拠がなければ解けない、そういうシステム。けど、そこの名簿にもあるように死亡者リストに載ってるのに生きている能力者の名簿から消えていない。これがどういう意味かわかるでしょう?」
春樹の顔がみるみる蒼白になっていくのが視界の隅で見てとれた。
それを把握できるほど冷静でいるのに、莉子の存在についてはまるで意味がわからない。
「そん…な…俺は見たぞ。ちゃんと…。莉子が死んだのを…」
今まで一言すら触れなかったことを初めて口にした春樹に心底驚いた。
あの日救急車の音を辿って、人だかりをかき分け、あの場所にたどり着いた時にはもう、血だまりとあのウサギの仮面だけがその場に取り残されていたから。
「死体まで確認したの?ちゃんと心臓の音がしていないかどうか。脈打ってないかどうか。呼吸をしていないか。ちゃんと死体で存在していること、ちゃんと本人がお墓に、骨壺に、納められたことまで確認した?」
タサナの言葉は容赦なく春樹に突き刺さる。
里桜にも容易に突き刺さった。
「、、っ。そんなことっっ、確認できる頭じゃないことぐらい、わかんだろっっ、、」
あまりにも容赦ない言葉を発するタサナの胸ぐらを掴んだ。
タサナの突き放したような言葉に怒りを感じながら、未だに信じられない気持ちが言葉を伝って滲み出る。
勢いでタサナの体が本棚にぶつかり、何冊かの本が落ちた。
睨むように見つめたタサナの瞳からは何も感じられない。
「春樹、、、「それが岩崎莉子本人だったらってだけの話だけどね。その死体が岩崎莉子本人でないのなら確認しても意味がない。おそらく奴らは精巧に偽装していただろう」
銀縁の眼鏡をかけ、知らぬ間にそばの本棚を調べに来ていたジャン=ギューリオが口を挟む。
「ええ、そうよ」
春樹が掴んだ手をゆっくりと解いてタサナが答えた。
「話を元に戻すけど私は岩崎莉子についての死の真相を話に来たんじゃないわ。貴方達は唯一の死の証人。死んだはずの人間が生きて存在していることを確かめに来たの。書類上ではあるけれど」
解かれた手を俯いて見つめる春樹にタサナが言い聞かせる。
「あと、16年前。犯罪者ではなかったが指名手配になった能力者がいたらしい。なんでも世界警察にとって危険因子だったようだ。その能力者は蘇生の能力を持っていた。死人を生き返らせるなど自然の摂理をゆがませる原因でしかない」
「まさか、、その能力者によって莉子が蘇生されたと言いたいの?」
信じられず思わずジャンに向かって囁いた。
「その可能性も視野に入れているわ。いずれにせよ死人が生きて存在している。しかも能力者だけが。そして死人が表に出て生きていることはない。私たちの創始者の追放された1人が作ったとされるペルソナ。これらの情報から導き出される仮説として、構成員は表沙汰では死んだとされる人物だといえるわ。そりゃ死人のほうが足が付かないもの」
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