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ジャックナイフの滑りにくくなったグリップを逆手に握ると、3人の前から駆け出す。
さっきから気になっていた大きな<影>。
さっき作業していた場所から扉側に100mほど後退した位置に佇んでいた。
タサナが書庫に入るときは大抵ジャンしか入り込んでこない。
見知った気配は知らぬ<気>を纏ってタサナの周辺にいる。
影の近くに走り込み影を見下ろせる場に位置する本棚の一番上にしゃがみこむ。
影は足音がどこから聞こえたものかと知ろう慎重に周囲を見回す。
視界でとらえられるのは自らを中心にして半径約1m少しだ。
それほどこの書庫の闇は濃い。
そんなように見回す限り、この影はこの書庫に精通している人間でないことが伺える。
タサナなどの一日のほとんどを書庫で過ごす者は少ないが彼らはこの濃く濃密な闇に慣れている。そのおかげで今は目を瞑ったようにしか思えない闇の中でも本棚の位置が見えるし、まず記憶している。
(素人がッ!)
タサナは親指の爪を噛み、内心毒づいた。
(誰がこんな奴採用したッ)
秘密管理者には長年国際警察に属し、信頼された者がなるのが従来である。
だが、こんなひ弱な素人が採用されたのは十中八九スパイだ。
(ちっ…バカどももそろそろ入れ替えか)
素人を入れるような上がいるのならソイツも赤だ。
タサナはいろいろな見えてきた事実に苛つきながらも逆手に構えたジャックナイフを握り直した。
シュッ、と軽い音を立てながら影の真後ろに片足を立て、膝を付いた体勢で着地するとジャックナイフを構えた右手を付いた右膝側から、つまり、右下から左上にかけ斬りつけた。
得体の知れぬ闇から聞こえた音に後ろを振り向いた影の体には呆気なく刃が吸い込まれるように入っていく。
肉を斬る感触がタサナの全身を凌駕した。
影は真ん中まで斬りつけたところで後ろに軽く跳びずさった。
その行為を詠んでいたかのようにタサナは怯むことなく前進し、跳びずさったところへ踏み込み、逆手にジャックナイフを持った右腕で首元を押さえつけ真後ろの本棚に押し付ける。
おかげで大きな音を立てて本が数冊黒曜石の床に打ち付けられるように落下した。
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