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ちッ…
夜の闇は知らぬ間に空全てを覆っており、家々の屋根を伝って移動している人影は内心“削がれなかった”ことに安堵した。
“削がれかけはした”ものの皮一枚で繋がったようなものだ。
ーったく…。まさか、あんなに厳重とは思わなかった。おかげで“削がれた”じゃねぇか。
人影、もといAー田沼 ヒカルはそうひとりごち、ある家の屋根で止まった。
何をするでもなくしばらく突っ立っていたが黒の革手袋を右手だけ外し被っていたフードを下ろした。一纏めにしていた黒髪をピン一つで放つと頭を振って髪をほぐす。
そうすることで少し凝り固まった力を抜いたのか仮面も外してマントの内に着ているホットパンツに吊り、どこからか白い包帯を取り出した。
黒いマントは通常左右対称のはずだが、ヒカルのマントはアシンメトリーな具合で左腕の部分がまるで引きちぎられたようになっていた。
これが彼女の言う“削がれた”という状態なのだろう。
よく見れば彼女の左腕は肉を削がれたように皮一枚で繋がった状態になっている。包帯でその削がれた部分をくっ付けるように応急処置ではあるが巻いてゆく。
痛みに顔をしかめ、また歩を進めた。
家々を飛び越し、ある廃墟に降り立つ。
そこには移動手段であるバイクを隠していた。
だが、バイクのそばには先客がいた。
「おーおー。派手に削がれたもんだな。奴ら、そんなに強ェのか」
ヒカルにとっては不快に聞こえる男の声だ。
「うっせぇ。翔んだ時に網に引っかかったもんだ、これは」
男のそばに行くとバイクに引っ掛けた 赤いオフロードヘルメットをかぶる。マントを脱ぎ、予め用意してあったブルゾンを羽織るとマントは捨てた。
「どけ」
シートに図々しく座る男に覇気なく言う。
「ヒカルよぉ。いつまで莉子の真似してるつもりだ。莉子にそろそろ仮面を返したらどうだ」
男ーマリア・G・アークノイドはそう薄ら笑いを浮かべて言った。
「あぁ。返すさ。奴らは充分莉子だと信じ切ってるだろうからな。ちょっとした油断を発生させれた。だが、まずは帰らせてくれ。この腕を治したい」
ヒカルはそうマリアに言った。
「それもそうだな」
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