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マリアの言葉を背にヒカルはデュアルパーパスの黒いシートに跨った。
エンジンをかけながらマリアに声をかける。
「後でな」
「あぁ」
ヒカルには薄っすらと笑ったマリアの顔が見えなかった。
スーッ、と怪しく光る刀を抜いた音はバイクの轟音にかき消され、ヒカルはなに一つ気づいていなかった。
背後に一瞬痛いほどの殺気を感じたと思えば背中に冷たい刃が通る感覚が全身を凌駕した。
幾度となく自らの手に馴染んだ肉を断つ感触を自らの身体で体感する。
刃が振り抜かれ赤い鮮血が鮮やかに舞った。
振り向くと同時に己のあまり見慣れない赤が視界に飛び込んでくる。
その瞬間自分が背を斬られたのだと悟った。
「綺麗だぜ、ヒカル。お前の赤は濃い。純粋な赤だ。その赤もらうぜ」
視界の片隅でマリアが恍惚とした表情を浮かべているのが見えた。
ーあぁ。マリアに斬られたのか。
「切られ…た、のか…。上…に」
ヒカルが喋るとマリアの表情が曇り冷酷な声でヒカルに答えた。
「あぁ。そうだ。もうお前は用無しだとよ」
マリアはヒカルの深い傷に触れ鮮血を人差し指で掬った。
「あぁ"あ"っ…ッ」
触れられた瞬間激痛が身体を巡った。
「こんなに透明感のあるやついねぇよ。やっぱ、俺がお前の処理に名乗り出て正解だったわ」
人差し指に滴る血はマリアにとって最高だったらしい。
「あばよ、ヒカル。お前は俺らにとっていい仕事をしてくれたよ」
マリアは口元に笑みを浮かべ刀をサッと振り、その場を後にした。
「ふっ…。わりぃな。やられてもーたわ」
ヒカルはふっ、と笑うと誰かに許しを乞うかのように呟き目をつむった。
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