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ヴァチカン 最深部
「...っおい。しっかりしろ。お前こんな事でぼさっとするタマじゃねぇだろっ!」
ジャンのタサナを揺さぶる声に脳が覚醒した。
やはりあの仮面の何者かの存在は大きな影響を及ぼしたようだった。
いや、あたしに、か。
あの仮面のことで影響を受けやすいのは春樹のはずなのにいつの間にか春樹は感情が切り替わっていた。
生きているとわかったからなのか。はたまた。
里桜の目が虚ろだったことに気づいていたのだろうか。
はっ、とした際に春樹は里桜の目を覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
声と表情は心配そうに気遣ってくれている。
だが、内心はあの仮面の人物を追いかけたくて焦っているのが見て取れた。
里桜はすぐさま立ち上がって埃を払った。
「だいじょぶ。ここは網が細かい。だから絶対に大小なりとも負傷しているはず。それほど遠くには逃げられないだろうし、逃げられても血痕は残る。そうだろ?」
春樹同様考えを切り替える。
里桜の研ぎ澄まされた黒い瞳が鋭さを増した。
その鋭さと共に里桜の口元に笑みが浮かぶ。いつもの里桜の知恵が、冷静さが戻りつつあった。
「あぁ。今からならどれだけ早くても見回せば見つけられるさ。そのためにこんな創りなんだからな」
春樹は里桜の笑みに答えるように答えた。
「ジャン!俺らはこれから全包囲網を検索にかける。里桜、監視課に知らせとけ。この30分間でデータベースにない影が通らなかったか洗い出せ、ってな。行くぞっ」
春樹は里桜とともに足早に最深部を出て行く。
それからの行動は早かった。
最深部を去った2人の周りには一瞬でヴァチカン本部の制服であるジャケットの下に青いパーカーを羽織った集団が降り立った。下には幅が細めの黒いニッカーボッカーを着用している。
制服の下にパーカーを羽織った集団はヴァチカン内でも異色であることを示していた。
「最深部の書庫の侵入者が離脱した。おそらく射程圏内からは出ていない。監視課からは連絡がないからな。そこの2人は監視課に向かってくれ」
春樹は側に駆け寄った部下からパーカーを受け取りそう指示する。
「あんたたちは防衛部を引っ張って射程圏内ギリギリに網を張り巡らせろ。ネズミ一匹外に出すな。そのつもりで行け!」
里桜は周りの部下数人に声をかけた。
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