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「急げっ」
里桜の声が周りの部下を鼓舞し、叱咤する。
指示された部下たちは散り散りとなり、他の部下は里桜たちの後ろにつく。
まだ、地上は静かだ。
侵入者が離脱しない限りヴァチカン本部自体は機能しない。
この侵入者の案件の指揮はまだ特殊能力管理機関が持っている。
歩いていることさえもどかしい、そういう焦燥が表れたのか春樹は能力のスイッチをオンにし、走り出した。宿舎やその他機関専門の建造物の屋根を飛び越えながらその姿はすぐに凡人では見えなくなる。
連絡端末からの情報が里桜の耳につけたインカムを通して脳に伝わる。
“こちら監視課。データベースに無い影が南ゲートに接近中!約5分ほどで射程圏内を離脱される!”
「南ゲートだっ!全隊向かえっ!」
里桜はマイクに叫ぶと同時に横を走る春樹がトップスピードで駆け抜けた風を感じた。
そのおかげで何かがクリアになった。突然と目が何かを捉えたのだ。
捉えたのはここ数年は使われていなかったコンクリート製の研究所だ。
完全撤去にはある程度の費用が必要なため管轄地区は撤去を放棄したようで半壊状態のまま元の形を保っている。
里桜は1人、研究所の元に降り立った。隊員は全て春樹について行った。好都合だ。
この単独行動は里桜の独断に過ぎない。数人の部下を巻き込むのも癪である。
外壁が崩れ落ち、建物の内部が丸見えになっている。まさに廃墟だ。
二階に上がると一歩踏み出すごとに砂地を踏み締めるような音が鳴った。
ーこの研究所は一度調べに入ったことがあったハズ…たしかここら辺に吹き抜けがあって…
頭に当時みた地図を浮かべ吹き抜けがあったらしい場に出た。
ーん?
象牙色と灰色の混じったコンクリート一色の景色にあるはずの無い紅がこびりついているのが目に入った。
ーまさか‥ビンゴっ?
内心嬉々としながら紅を追った。
だが、それにしては人がいる空気がしない。何一つ音が聞こえない。
壁の手前まで追い、覗き込むと壁のそばから続く空間に紅に塗れた足が見えた。
「おいっ…」
その足に駆け寄ると背をバッサリと斬られているのが目に入る。
これほどの深手なら助からないだろう。
ふと、手元を見るとあのAが付けていたのと似た太めのシルバーの指環があった。
即座にインカムをオンにする。
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