始まりは唐突に

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「そら、ソラ、そら」 神様は繰り返し繰り返し、その言葉を呟き続けている。 や、やっぱり駄目だったのだろうか。 「えっと、やっぱり駄目でした? さっき話したこともあるんですけど、神様の目って雲一つないまっさらな空みたいに綺麗な青色で、そんなイメージからもいいんじゃないかと思ったり思わなかったりも無きにしも非ずなんですが」 「…そらです」 「え?」 「私の名前は今この時より、『空』です。駄目な訳がありましょうか。気に入らない訳がありましょうか。『空』。素敵な名前です」 そう言って神様-いや、空さんは、大事な宝物をそっと包み込むかのように、ゆっくりと開かれた掌を閉じた。そこに描かれた、ただ一字。それを失わないように。 「たった一人の為の、たった一つの名前。 こうやって人の子らは、想い、想われ生きているのですね。 ありがとうございます。真樹さん。やはり貴方は不思議な人です」 『ありがとうございます』。その言葉が胸に響く。ただの思い付き、衝動的なものだったその行動は間違いではなかった。 「では、改めまして自己紹介をさせていただきます。 貴方方の生きる世界の神を務めさせていただいている、空と申します。宜しくお願いします」 言葉と共に、空さんはこちらに手を差し出した。 「貴方の息子の一人、雪野真樹です。こちらこそ宜しくお願いします」 握り返した掌は暖かく、少し照れ臭かった。でもほんの短い時間にも関わらず、空さんのことを理解出来た気がして、照れ臭い以上に嬉しかった。
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