始まりは唐突に

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「かみ…さま?え?冗談、ですよね?」 笑った顔が上手く作られずに、頬の筋肉が引き攣るのが分かる。目の前の人が何を言っているのか、分からない。 「だって、神様だなんて、そんな。空想上の存在じゃないですか。やだなぁ、冗談きついですよ。ははは…」 「空想などではありませんよ。私は、確かに貴方方の世界の神… 言葉を変えましょうか。『管理者』。こういった表現の方が分かりやすいでしょうか」 Aさん改め『自称』神様こと管理者さんは、相変わらずその透き通るような目で、微笑みながらこちらを見つめている。とても冗談を言っているようには見えないけれども。 私は神様だなんて言われて、はい、そうですかと納得できる訳がない。何か確かな証拠でもあるなら話は別だけど。 「突然こんなことを言われても信じていただけない気持ちは分かるのですが。 …そうですね、では、ちょっとした確認をさせていただきましょうか。 貴方は今置かれている状況に不安を感じていますね?そして、俄かには信じることの出来ない私の言葉に、若干の不信感を抱いている、と。ここまでは宜しいでしょうか?」 ここまでは、言われた通りだ。でも、こんな訳の分からない状態になったら、誰もがそう思いそうな、そんな当たり前のことを自分は感じたと思う。言い当てられたところで、それほど特別なこととも思えない。 「…でもあなたはそう考える一方で、何故か無条件で私を信用してしまっている、そんな自分にも気が付いているはずです。違いますか?」 まさにその通りだった。何故かは分からないが、この人に危害を加えられることは絶対ないと、そう信じている自分が、確かにいた。美しい人だから、とか。親切な人だから、とか。そういった印象から得る実感ではない、確信めいた気持ちが確かに存在した。 「…どうしてそれを?」 「そう感じることこそが、私が神である証明なのですが」 そういって『神様』は笑う。 それでもやはり、信じられない。 そんな頑なな態度を崩さないこちらを見て、『神様』は初めてその笑顔を曇らせた。 「これでもまだ信じていただけないとなると… 本来このような使い方は好きではないのですが、信じていただけないことには、お話を進められないですし。少々我慢なさってくださいね」 曇った笑顔を、よりいっそう悲しげに歪めた『神様』は、掌をこちらにかざすと、ただ一言、こう告げた。 【跪け】
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