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瞬間。
自分の意思とは関係なく、膝が折れた。この人の言葉には逆らえない。この人、いや、この方は、ちっぽけな人間が同じ目線に立っていい存在じゃない。
唐突に理解した。この方は、自分達にとって絶対な存在であることを。
折り畳んだ膝がガクガクと震え、息がつっかえ動悸が止まらない。そして、視界が涙で滲む。止めどなく溢れるこの涙はしかし、悲しみではなく喜びからのものだった。
そんなこちらの様子を悲しげに見つめていた神様だったが、不意にそのかざした掌を下ろした。
すると、先程まで感じていた威圧、歓喜が嘘のように消え去った。体の震えも止まっている。
「…いっ今のはっ、っぅく…はっ、一体?」
涙の余韻で嗚咽を漏らしながらも、震える声で尋ねる。
「言霊(ことだま)を使って体を縛らせていただきました。申し訳ありません」
「ことだま?」
「言葉とは意思疎通のための道具、ただそれだけではありません。時に人を傷付け、時に人を癒す力を持っています。これは全て言葉の持つ力、言霊によるものです。
貴方方も無意識の内に行使している力なのですが、それはただ漠然とした『善意』や『悪意』といった形でしか発現していません。
今回私は、言葉の持つ言霊そのもので貴方を支配させていただきました」
「…跪け」
「その通りです。言霊による強制力は絶対です。先程のような使い方は余り好ましいものではなかったのですが…
でもこれで、私の話、信じていただけたでしょうか?」
ことだま。聞いたこともない不可思議な力。
本当は、さっきの一言-跪け-というその一言を聞いた時点で、理解していた。今自分は、これまでその存在すら信じていなかった、神様の目の前にいるということを。
だから、今度は…
「今までの失礼な行動をお許しください。神様と呼ばせていただけばよろしいでしょうか?」
自分の意思で膝を付き、もちうる知識を総動員して、謝罪の意を示した。
神様との邂逅…
信じられないような夢物語が、今現実になっている。
これから一体どうなってしまうのだろうか。漠然とした不安を感じる一方で、ようやく信じてもらえたという安堵からか、また眩しい笑顔を取り戻した神様を見ていると、悪いことにはならないだろうという根拠のない安心感が胸を満たした。
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