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「と、言いますか、神様って名前はなんて言うんですか?
神って呼ぶこと自体が既に他人行儀な気がするんですけど」
「名前も何も、私は神ですから。それ以外の何者でもありませんので」
なるほど。これは前提からして、何か食い違っている気がする。
「えっとですね。僕は神様も知っての通り人間ですよね。でもそれは種族っていうか、ただの分類なわけであって、僕には雪野真樹という僕個人を指す名前があります。
なので、僕に言わせてみれば、神様のことを呼び捨てにしようがしまいが『神』と呼ぶ時点で、距離があるんじゃないかと感じちゃうわけです」
「個人を示す呼称…名前…」
そう呟いたかと思えば、神様は急に俯いてしまった。またしても、何か地雷を踏んでしまったのだろうか。
「言われてみればおかしな話です。貴方にしてみれば、仲良くしようといわれた相手が、私のことは人間と呼んでくれと言ってきた。ということになるのですね。
…しかし私は私個人を示す言葉を、神という言葉以外に知りません」
そういって彼女は寂しげに微笑んだ。
…そうか、いつから、どういった経緯で彼女が『神』という存在になったかは分からない。でも、彼女はずっと一人ぼっちで、生きてきたのだろう。
どういった経緯で、神様と会うことになったのかは見当もつかない。今のこの状況も夢なんだか現実なんだか、よく分からない。でも、この寂しがりやの優しい神様を放ってはおけない。そう思った。
「そら」
「…?何か仰いましたか?」
訝しむ神様に近付き、その腕を握った。反射的に強張った掌をゆっくり開き、とある字をその上でなぞる。
「神様っていつも僕達のことを見守ってくれてるんですよね。だから『空(そら)』。見上げればいつもそこにいて、見守っていてくれる存在。
単純な上に安直ですけど、どうですか?」
正直、神様の名前を考えるなんて、お前は何様なんだとか、その上何の捻りもないなんてどういうことだよとか。
自分でも思うところは、非常に多くあったが、目の前で悲しげに笑う人をどうにかしてあげたい。その一心で、勝手に体が動いていた。
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