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中嶋光司という男は学内では有名なお調子者だ。所謂人気者体質なヤツ。
そんなこいつと出会ったのは高校入学前日。駅近くの公園でのこと。
中嶋はとても暗い表情で、1匹の猫の横に素手で穴を掘っていた。
飼っている猫が死んだのだろうかと思い俺は手伝いに行こうとしたが、猫はまだかろうじて動いていることに気付いた。
あまりの事におそるおそるヤツの表情を見ると、口元だけ静かに笑っていたんだ。
俺は足がすくんだ。けれどそこから立ち去ろうとも気配を消そうとも思えず、怖いもの見たさで声をかけてしまった。
「何してんの」
「猫の墓掘ってんの」
「まだ死んでないじゃん」
「死後硬直だよ」
「息、あるよ?」
「気のせいだよ」
「そっか」
「うん、そうだよ」
きっと、と言って笑ったヤツの顔はどこか艶めかしい色を持っていて、背筋に嫌な汗が流れた。
「なあ、お前名前は?」
「中嶋光司」
「へえ」
「それだけ?」
「何か聞いて欲しいわけ?」
「別に」
興味はあった。ただ聞くほどのネタも持ち合わせていない俺は穴堀を手伝って、猫を体半分まで埋めた。
「何で半分なわけ?」
「これで助かったらこいつの勝ちなわけ」
「へえ」
泥の入った人差し指で指し締めされた猫は少しだけ瞬きをしていた。
「へえ」
ザク、ザク。
それを聞いた俺はなんとなしにザクザクと猫を土から救出し、肩に抱いた。
「何してんの?」
「こいつの勝ちにしてみたくなった」
へえ。とつまらなそうに言われた。
こんな偏屈な最初の出逢いから次の日、俺達は隣同士の席についていた。
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