彼女は「巨大化した」。

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 ――などと考えていた、その時、 「はあい!」という轟音と内臓まで震わせる震動が私達を襲った。そして、それと共に校庭のド真ん中に伸びる一本の柱。  その柱が伸び切るまでに約二秒。校舎より高くそびえ立つ柱――もとい、右手の主であるシュリが発言権を求めたのだ。 「今の私は、ご飯よりも、恥ずかしくない服が欲しいです」 「それで良いのか? 明日になって腹が減っても知らんぞ」  私はシュリの言葉が信じられなかった。私に言わせれば肌を隠す事よりも、腹を膨らませる方が大事だ。 「まあまあ青ヶ崎のお嬢様、事の当事者であるシュリが大丈夫だと言ってるんだから、僕達が口を挟む事は無いよ」  そう言われれば私から返す言葉は無かった。この議題に主観の押し付けは不要だし、はっきり言ってシュリに私達を気遣うような気配りは出来ない。いらぬ心配をしてしまった。が、 「お嬢様、はやめろ」  黄太は肩を竦めて舌を出した。止めろと言われても止める筈は無いのだが、どうしても止めろと言ってしまう。 「となると『衣』ね」  藍場さんは私達を無視してクラス会を続ける。話が逸れやすい私達には、最も必要な人材だ。  だが「食」「住」と並んで「衣」だって難しい。十五メートルの女の子が着れる服なんて人類 は作った例があるのだろうか? 答えは恐らくノー。前例を重んじる日本人にとって、これ以上不安な事はない。皆もそう思っている筈だ。真上にある七月の太陽だけがいやに主張する。 「……まあ、服くらいなら、私達でも何とかなりそうじゃない? 百合のコネで何とかならないの? 実際名家のお嬢様なんだし」  橙子ちゃんはこれ以上の名案があるかという勢いで私に言った。柴田が「そうだそうだ」と囃す。黄太も「悪くないね」とか言い出した。 「お嬢様は百五十坪の豪邸に住んでるんだから、十五メートル四方の布くらい朝飯前だろう?」  いや、そのロジックはおかしい。私の知る限り住んでいる家の広さと入手できる布の大きさの関係性についての研究なんてものはない。それに、 「私の家はそんなに広くない。精々百二十坪だ。……って」  おい。何だ、その目は。
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