彼女は「巨大化した」。

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* 「ちょっと盗み聞きしてきたけど、先生方は皆、授業の予定ばっかり話し合ってたよ」  シュリを囲んで並ぶ私達の内、汗を光らせる黄太の芝居がかった口調で屋外のクラス会は始まった。ちなみに議長は黄太、書記は藍場さん。以下はヒラ。  クラス会というのもシュリの巨大化を受けて先生達は急遽職員会議を開き、授業は中止(正確には自習だが、それどころでは無い)になった。  黄太はそうなる事をいち早く予感して、職員室に聞き耳を立てに行ったらしい。 「まあ薔薇色の学校生活については先生方に任せるとして、僕らは愛すべきクラスメイトの生存権について話し合おうじゃないか」  吹き替えの洋画みたいな喋り方で黄太は話す。こいつは昔から、ずっとこんなだ。 「生存権?」  橙子ちゃんと柴田が眉を寄せた。 「そう、生存権! 健康で文化な最低限度の生活! 今日の議題は、その第一歩としてシュリの衣食住をどう確保するか、だ」 「最初からそう言え」  と、窘めても無理な話だ。生きとし生ける者が呼吸を止めないように、黄太は大仰な言い回しを止めない。  実際黄太は私の意見を「はいはい」と流した直後に、 「と言うわけで当事者シュリを始めとする賢明なるクラスメイト諸君に意見を求めたい! 着る物、食べ物、寝る所のどれが真っ先に手に入るだろうかと!」  大仰な物言いにも拍車が掛かってきたけれど、言っている事は中々理屈が通っているように思えた。  衣食住のうち「どれが一番大切か」ではなく、「どれが一番早く手に入るか」。早さを重視したのは、衣食住の三つは全部が大切だから。一つでも早くに準備してあげたいという黄太なりの心遣いだろう。
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