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暑さに喘ぎ、苦しそうに呼吸をする幼馴染を見て、人は何を思うだろう。
多分、「大丈夫かな」とか「何かできる事はないかな」だろう。心無い人間でも「面倒な事になった」とかそのくらいの筈だ。幸いにも私はクラスメイトに恵まれた。面倒になったというような表情をするような輩は私のクラスにはいなかったからだ。誰より先に飲み物を取りに走った黄太や、先生を呼びに行った橙子ちゃんは勿論、私と一緒にシュリに声を掛けてくれた柴田、緑山、藍場さんには感謝しきれない。
けれどそんな心優しい人間が、こんな状況で「シュリが大きくなってるように見える」などと考えるだろう。これは反語だ。倒れた友人を前に、そいつが巨大化してるように見えるなんて言う奴のことを私は信じない。たとえ本当に巨大化していたとしても。
何が言いたいかと言うと、私達の友情や認識や常識がそれをみとめようとはしなかったけれど彼女は膨らんでいた。聖書に反して、地球が回っていたように。
最初に異変を感じたのは私だろう。彼女の小さな右肩に回していた筈の右手が、いつの間にか突っ張っている事に気付いた。
おかしいな、と頭に掠めたその時に私の手はシュリの肩から滑り落ちるように離れた。その手が最後の箍であったかのように、シュリの巨大化は加速した。
体操服がはち切れそうになりギシギシと音を立て、シュリの肩を抱いていた私は彼女の体に押し出されるように仰向けに倒れた。シュリに押し出しされても、押し潰されるのだけはごめんだ。私は彼女から離れ、皆もゆっくりと後ずさった。
――これは、何?
金魚のようにぱくぱくと動く口を自分でも止めることが出来ないのに、どんどん大きくなっていくクラスメイトを見て、誰に、何が出来るっていうんだ。橙子ちゃんに連れられて来てた私達の倍は生きている寺田先生でさえも、呆気に取られていたのだから。
だから私は黄太を尊敬する。
飲み水を取ってきた帰り、いよいよ体操服が破れるというシュリを漫然と見ていた私達に対して、あいつはこう叫んだのだ。
「男子は、回れ右!」
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