体育祭の当日は。

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真っ暗な教室の中、あきは一生懸命呼吸して心を落ち着かせる。 佐伯はとうに何処かへ行ってしまっただろう。 隣のあきの教室からはわずかな物音は聞こえるが話し声かどうかもわからない。 「結局、佐伯ってゆいが好きなの?」 消え入りそうな自分の声にますます気持ちが沈む。 もし、佐伯がゆいを好きなのならば......ゆいの気を引きたくて私に構ったのなら......すごく子供染みた方法ではあるけど、結果としては成功している。 ゆいは自分からはそんなに特定の男子と喋らないけど、実際、佐伯とはよく話してる。 内容はなんであれ、一番喋るのは佐伯だろう。 その容姿ゆえにモテ慣れ・断り慣れしているゆいは正攻法では佐伯でも難しいだろう。 だからって嫌われたらしょうがない気もするけれど。 でも、自分もそうだから分かる。キモいと嫌いは違う。 キモいは何があっても好きにはなりにくいけど......嫌いは、印象が少し変われば、正反対の好きにベクトルが傾くことだってあるかもしれない。 普通に告るより、ハイリスクだけどハイリターンだ。 「はは、なんで私、佐伯がゆいを好きな可能性しか浮かばないんだろう」 ほんの少しだけあった『もしかして佐伯って私のこと......』なんて可能性は、欠片も残らず吹っ飛んだ。 だって、それ位ゆいと佐伯はお似合いな気がした。 「あーあ......本当、好きになる前で良かった」 自分の本心なんて感づいていたけれど。 応援する佐伯を見て『これ以上は危険だ』って思った時にはとうに遅かったけれど。 でも、好きって認めないことが、芽生え始めた気持ちを沈めちゃうことが......一番傷つかない方法だってことを知っていただけだ。
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