第一回 お題「縁日」

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暗闇の中に浮かびあがる赤い鳥居をくぐると、参道にはたくさんの露店が立ち並んでいる。 僕はそのどれにも手をつけず、ずんずんと人ごみをかき分けて神社の境内を一目散に目指した。 急がなくては。急がなくては。 彼女が浚われてしまう。 鬼灯のように淡い光を放つ提灯の間を縫うように、僕は石畳を走った。 祭りは佳境に近付き、人々の狂気染みたどよめきと、油っぽい食べ物の匂いがそこらじゅうに充満していた。 僕はそうした有象無象から逃げるように、水色に彩られた彼女の笑顔を瞼の裏に描き出す。 夏休みのプールを、彼女は紺色のスクール水着で駆け抜けた。 塩素臭い水に濡れたその唇は嫌になるほど美しくて、僕は彼女に死ぬほど焦がれた。 その彼女が、いま、僕の目の前から、この世から、消えようとしている。 それだけは阻止しなければならない。 僕が彼女のことを想えば想うほど、奴の神経を逆なでするらしく、超常的な現象が僕を襲った。 林檎飴の砲弾。 綿菓子の網。 蛸焼の霰。 金魚の泳ぐ底なし沼。 ベビーカステラの手榴弾。 射的の鉄砲を持ったヒョットコの軍勢。 水風船の地雷。 僕は血を吐き、身を裂いた。 掻い潜れ。掻い潜れ。 奴の手品なんかに僕は負けない。 境内に近付くほど、露店の数は少なくなり、人影も徐々にみえなくなっていく。 もうすぐだ。もうすぐだ。 僕は走る。色とりどりの金平糖の雨の中を。口に飛び込んで来た金平糖を噛み砕きながらひた走る。
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