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暗闇の中に浮かびあがる赤い鳥居をくぐると、参道にはたくさんの露店が立ち並んでいる。
僕はそのどれにも手をつけず、ずんずんと人ごみをかき分けて神社の境内を一目散に目指した。
急がなくては。急がなくては。
彼女が浚われてしまう。
鬼灯のように淡い光を放つ提灯の間を縫うように、僕は石畳を走った。
祭りは佳境に近付き、人々の狂気染みたどよめきと、油っぽい食べ物の匂いがそこらじゅうに充満していた。
僕はそうした有象無象から逃げるように、水色に彩られた彼女の笑顔を瞼の裏に描き出す。
夏休みのプールを、彼女は紺色のスクール水着で駆け抜けた。
塩素臭い水に濡れたその唇は嫌になるほど美しくて、僕は彼女に死ぬほど焦がれた。
その彼女が、いま、僕の目の前から、この世から、消えようとしている。
それだけは阻止しなければならない。
僕が彼女のことを想えば想うほど、奴の神経を逆なでするらしく、超常的な現象が僕を襲った。
林檎飴の砲弾。
綿菓子の網。
蛸焼の霰。
金魚の泳ぐ底なし沼。
ベビーカステラの手榴弾。
射的の鉄砲を持ったヒョットコの軍勢。
水風船の地雷。
僕は血を吐き、身を裂いた。
掻い潜れ。掻い潜れ。
奴の手品なんかに僕は負けない。
境内に近付くほど、露店の数は少なくなり、人影も徐々にみえなくなっていく。
もうすぐだ。もうすぐだ。
僕は走る。色とりどりの金平糖の雨の中を。口に飛び込んで来た金平糖を噛み砕きながらひた走る。
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