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春はまだ顔を出したばかりで、冷たい木枯らしの匂いが空中に漂っていた。
まるで、長かった冬を名残惜しむかのように。
僕らはまだうまく馴染めない固くて黒々とした制服に身を包んで、冷え冷えとした体育館に行儀よく整列している。
白い髭をたくわえた厳めしい顔の校長が僕らを見下ろしながら何事か語り、重々しい足取りで壇上から下りた。
僕は一生懸命欠伸をかみ殺している。
高校の入学式もこんなものか、と。
近いからという理由で選んだせいか、特にこれといった感慨はない。
レベルの高い隣町の進学校に進もうと躍起になって努力して、きちんと合格してみせた中学の親友ことを思い出して、僕は少し憂鬱な気分になる。
もしかしたら、彼と僕の人生は、すでに大きな差が開き始めているのではないか。
僕は両隣を横目で一瞥して、小さくため息をつく。
ここに、あいつはいない。
意識の底に沈みかけていたとき、がちゃがちゃと騒々しい音がした。
ふと視線をあげると、ステージの下に何人かの生徒たちがパイプ椅子やら譜面台やらを慌ただしく並べている。
どこからか、大きな打楽器が鈍い光を放ちながら重たそうに運ばれてきた。
俄かに、名も知らぬ楽器の音がぷあー、とそこらじゅうで聞こえ出す。
楽器に息を吹き込むしゅうう、という音もした。
吹奏楽部だ。
僕の中学にも吹奏楽部はあった。
しかし、この学校はその規模ではない。
中学の吹奏楽部員はせいぜい三十人といったところだったが、この学校は、ざっとみただけで百人近くいる。
僕の隣に座っていた女子が、そのまた隣に小さな声で「私、吹奏楽部に入りたくてここを受験したの」と嬉しそうに話していた。
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