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そんなに実力のある吹奏楽部だったのか。
僕は何の下調べもせずにこの学校へ来たことを少しだけ悔いた。
部員たちのてきぱきとした働きでみるみるうちにステージが整い、体育館はあっというまに再び静寂に包まれた。
こんなにも多くの楽器が集結しているのを目の当たりにしたのは初めてで、僕は少し面食らっていた。
部員たちは楽器を手にしたまま、微動だにしない。
見回してみると、男子部員もちらほらといるようだった。
男子が吹奏楽部に入るというイメージがなかった僕は、興味深く彼らを見つめていた。
少しして、でっぷりとした巨漢がどすどすと足音を立てて楽団の前までやってきた。
彼は窮屈そうに着こなした黒いスーツからハンケチを取り出し、この初春の会場で額の汗をぬぐっていた。
恐らく彼が顧問なのだろう。
「吹奏楽部の演奏です」
無愛想な放送が入ると、巨漢が両手を高く上げた。
それと同時に、部員たちがさっと楽器を構える。
衣擦れの鋭い音がして、僕の肌は一斉に粟立った。
そして、音楽がやってくる。
演奏は圧巻だった。
今まで聴いたことのない厚みの音が、僕の耳に直接飛んでくる。
ステージからは遠く離れているのに、まるですぐそばに演奏者がいるような感覚だった。
これが、僕とそう年齢の変わらない人間がつくりだした音だなんて、俄かには信じられない。
音が天空に立ち上るように消え去り、一曲目が終わった。
体育館はばちばちという拍手に包まれる。
指揮を務めた巨漢は手を下してくるりと僕たちの方を向いた。
満面の笑顔で、新入生を見渡すと、一言こういった。
「ぜひ、吹奏楽部へはいりなさいね」
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