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入学式から数日が経ち、入学後のごたごたも片付いてようやく学校に慣れてきたころ、僕たちは猛烈な勢いで様々な部の先輩から勧誘を受けていた。
先輩方は一年生を見つけるやいなや、首根っこをひっつかんで甘い言葉で(半ば強引に)見学を勧めてくれた。
中には入部届を持ち出し、詐欺同然の手口でサインをさせようとする狡猾な輩もいたらしい。
しかし不思議と、吹奏楽部のそういった悪評は聞かなかった。
入学式で顧問自らアピールしていたくらいだったのに。
「小浦はもう、部活何に入るか決めたのか?」
クラスの連中が意気揚々と部活動見学に出かけていく放課後、教室でぼんやりとしていた僕を捕まえて、同じくぼんやりしていた大川が話しかけてきた。
「いや、あの…」
僕は口ごもる。
男のくせに、しかも初心者で、吹奏楽部に入りたいだなんて言いづらい。
実際僕はまだ見学にすら行けていない。
「なんだよ、決めてないの?決めてるの?」
大川の口調が苛立ちを帯びてきた。
僕はあきらめて、吹奏楽部に見学にいきたいという旨を伝える。
「まじかよ、お前……」
「笑いたきゃ笑ってくれ…」
「笑うわけないだろ!同志よ!」
大川が僕の肩をがっちりと掴んできて、僕はのけぞる。
男に触られるのは気色が悪い。
大川が女の子だったら嬉しいのに、と軽薄な考えが頭をよぎる。
「…同志って?お前も吹奏楽部に決めてるの?」
「そうそう。でも俺、初心者だし、男だし、見学とか一人じゃ行きづらくてさ。よかったよ,
小浦がいて。一緒に行こうぜ」
「ま、まあいいけど…」
大川に手首を握られ、ずんずんと音楽室へ引きずられていく。
よかったような、わるかったような。
とりあえず手を離してほしい。
さっきからすれ違う人たちの視線が痛い。
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