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人は死にそうになると、周りの景色がゆっくりに見えたり、走馬灯を見たりすることがあると言われるが、それは本当みたいだ。
(あ……オレ死ぬんだ)
今日の出来事が頭の中を巡る。
皆が家に来て、オレが昼を作って。
食べたら麗香が買ってきたケーキを皆で食べて、薫をしばいて。
勉強をずっとして、薫をしばいて。
勉強が一段落したからって、皆で大富豪やって、薫をしばいて。
それで負けたオレが罰ゲームで、月明かりの中買い物するため外に出た。
そこで、奴と出会った……
背後にいた城之内を振り返る。世界が酷くゆっくりだ。
振り返った瞳には、歪んだ笑みを浮かべる城之内と。
まさしくオレを殺すために振りかぶられた日本刀と。
何故だか不気味なほど赤黒い色をした、月が映った。
世界が急速に元の早さに戻っていく。
ヒュン―――
風切り音が、その場を支配した。
(あ、これは死んだ)
思考の余地なくそう思った。
その時。
ガッギィィィィン!!
唐突に視界の端に何かが割り込んできたかと思うと、城之内の刃を受け止めた。
「なっ……」
驚いたのは城之内も同じのようで、
「ほぅ!」
ギィン!と弾いて距離をとり、奴は叫ぶ。
「流石桐生家。良い番犬を飼ってるやないの。なぁ、レイ」
「城之内……大起!」
そう、オレを凶刃から救ってくれたのは茜……いや、この場合はレイ・ストームの方が正しいか。
「この……行動の意味を良く考えることだ城之内」
ストームの声は冷たく、硬く、そして暗く響く。
「まーまー、堪忍な、レイちゃん」
それとは対象的に底抜けに明るい声。目も、さっきの蛇のような瞳から、細い瞳に戻っている。
「今日のはほんのご挨拶や。こんなんでコロッと逝っちまう奴に、グループは継げないやろ」
何もなかったかの様に話す城之内。
(こいつ、ズレてやがる……)
どうもコイツは世間と少し……いや、かなりズレていると感じる。そもそも考え方が違うのだ。
「またそんな戯言を……!」
今にも飛び掛かりそうなストーム。その手には小刀(ドス)が握られていた。
「やめときな、レイちゃん」
しかし。
そんなストームをみて城之内は。
「まだ、君じゃワイに勝てへんやろ」
さっきの蛇のような瞳を振り向き様に見せた。
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