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ゾクッ………
「くっ」
あの、人並外れた能力を持ち。どんな荒事にも動じないはずのストームが。
初めて気圧されていた。
(こいつ……それだけの相手だってことか)
震えるストームの手。こんな奴、普通の人間が勝てるわけ無い。
でも。
「待てよ……クソッ!!」
何故だか、無性に腹が立ってくる。ストームが……仲間が、舐められたみたいで。
「匠海君!?」
ストームも驚いている。当然だ、先ほど殺されかけたばっかだもんな。
でも。
振り替えろうとしない城之内に向かって、左手を構え、駆け出す。
震える足に心で鞭打ち、前へと駆ける。
何故だか、今ここで引いたら、大事なものを全て失う気がした。
「うぉぉぉぉ!!」
近付く距離。奴の背中まで……3……2……1……!
「千鳥……か?」
ボソリと城之内が呟く。
そして三度あの視線。再び世界がゆっくりになり、抜かれる日本刀。確かに早い。だが。
「……見えるっ!!」
無我夢中で左手を突き出す。そして。
ザン!!
オレ達は正面からぶつかった。ストーム……いや、茜の悲鳴が聞こえた気がした。
――――――
一瞬にして永遠のような静寂が場を支配する。両者は微動だにしない。
この静寂を、先に破ったのは城之内だった。
「……へぇ。なかなかやるやないか」
ニヤリと笑う城之内。それに匠海も返す。
「ハァ……ハァ……ハァ……お前も……大したこと……ないな!」
荒い息を吐きながらも、確かに笑顔の匠海。その頬には、浅い切り傷がある。
「ふん。ゆうてくれるやないの」
さらに笑い返す城之内の頬にも……血が一筋垂れていた。
――――――
*茜視点
(そんな……バカな……!)
私は、目の前の光景にただただ驚きを隠せないでいた。
理由は二つ。
一つ目は、あの武闘派で知られる、グループ内の急進派、城之内に傷を付けたこと。
もう一つは……
(どこであの技を……?あれはパクリでもなんでもない。古流武術、牙竜流(がたつりゅう)技の一つ、『千鳥』。)
なんで、匠海君が……
私は、難しい顔をしながら去り行く城之内を見つめていた。
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