6.鷺草と蛍火

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出来ることなら あの女の子に直接渡したいと思った。 何度も下駄の納まる足を思い描いた。 姿勢のよい歩む姿も。 やわやわとした芙蓉の花びらのような雰囲気も。 それでいて、すっとした強い眼差しも。 すべてを、思い出せる。 が、他の職人達が言う 「もう一度会いたい」 「仕事が手につかない」 というような、口に出来る思いではなく。 じんわりと、心の奥に住み着いた蛍火。 例えるならそんな感じの。 恥じぬ仕事をしたい。 下駄を履いてもらい、その表情を自分の目で確認したい。 そういう気持ちだった。 子晏は、その感情を何と呼ぶのか知らない。 恋と根を同じくするものだとは気付いていない。 まだ
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