6.鷺草と蛍火

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「もし不具合があったら、いつでも言ってくれ。」 「大丈夫です。もう足に馴染んでいます。ずっと履いていたみたい。とても丁寧に作られているのが分かります」 子晏は頭を下げた。赤くなる顔をごまかすために。 「これは、同じ木で作った、普段履きだ。使ってくれ」 取り出したのは、側面に飾り彫りのある下駄。 伝統的な魔よけの幾何学模様が並んでいる。 底に、芙蓉の花が彫ってあった。 瑠花は吸い寄せられるように見ていたが、きっぱりと言った。 「これは、いただけません」 「そうか…、すまない。注文以外のものを押しつけるわけにはいかねえな。 気にしないでくれ、悪かった」 下駄を引っ込めようと手を伸ばす。 「いえ、気に入らないのではなくて… もったいなくて」 きまり悪そうに瑠花が続ける。 「私は......職人の仕事は時間や手間を物に吸い取られる事だと思っています。 こんな素晴らしい仕事を、していただいて、あなたの時間を使わせたのが、もったいなくて… すみません。」
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