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蛍火が、熱くなった。
一言、一音が熱を持って自分の心に宿る。
気づいたら言葉になっていた。
「これは礼だ。
自分は......今まであんたほど真摯な奴に会ったことが無かった。
仕事に......向かう姿勢が」
言葉を選ぶ余裕は無い。
伝わるかどうかもわからない。
「毎日少しずつ積もっていく油断のようなもの。」
そんなものはこの少女には無いと思いながら、続ける。
「まだ修行中 なのに、どこかで冷めていた。慢心していた。
あんたに、気付かされた。
それは......これからの仕事の糧になる。
だから」
下駄を作る間、機織り機に向う姿を思い描いた。
痛みを堪えて弱音を吐かない理由も。
職人としての、強さ。
それを小さな身体に宿している少女への尊敬。
信仰を形に留める仏師のような心で、気がついたら下駄を彫っていた。
二人も、二人の間の下駄も薄闇に包まれようとしていた。
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