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私が折り紙の本を持ってくるように言うと、案の定彼はしてやられたという顔をした。
はぁ、覚えてあげればいいのに……。
それから本を開き、ここはこう、こっちはこう、そこでひねる……なんて娘に教えられること30分。
「お夕飯出来たよー」
「はーい!」
「や、やっとか……っ」
出来上がった食事をテーブルに並べていると、娘と彼が食卓に着いた。
娘は『はんばーぐー!』と両手を挙げて喜んでるんだけど、遊び相手だった彼は、まるでいつもの倍は働いたんじゃないかって顔をしていた。
そ、そんなに疲れるかな?
「駄目だ、覚えられん……」
「えー、なんでー?」
「そうよね。アナタ、覚えるつもりある? この間も私と練習したでしょ」
「そーなのー? ずるーい!」
最近我が家では、よくこんな会話をするようになった。
物忘れをする彼を、私と娘が注意するという会話を。
ちょっぴりイヤな予感を胸に秘めながら、私たち家族はその日も楽しく過ごした。
*
そんな彼が若年性アルツハイマーになったと判ったのは、娘が小学1年生になった頃。
医師の診察では、まだちょっとした物忘れがあるくらいの第1期らしい。
「……ごめん」
「何が……?」
娘が学校に行って2人きりになった自宅で、彼が謝る。
「その、こんなコトになって……」
「んーん、謝らないで。まだお仕事に支障が出るレベルじゃないんでしょ?」
「今のところはな。……けど、上司には隠さず言っておこうと思う。下手したらクビになるかもしれんが、症状が進行しない間だけでもやらせて貰うよう掛け合う」
「……そっか。これから大変になるんだよね」
「だから、ごめん」
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