MEMORY2/3

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  私が折り紙の本を持ってくるように言うと、案の定彼はしてやられたという顔をした。 はぁ、覚えてあげればいいのに……。 それから本を開き、ここはこう、こっちはこう、そこでひねる……なんて娘に教えられること30分。 「お夕飯出来たよー」 「はーい!」 「や、やっとか……っ」 出来上がった食事をテーブルに並べていると、娘と彼が食卓に着いた。 娘は『はんばーぐー!』と両手を挙げて喜んでるんだけど、遊び相手だった彼は、まるでいつもの倍は働いたんじゃないかって顔をしていた。 そ、そんなに疲れるかな? 「駄目だ、覚えられん……」 「えー、なんでー?」 「そうよね。アナタ、覚えるつもりある? この間も私と練習したでしょ」 「そーなのー? ずるーい!」 最近我が家では、よくこんな会話をするようになった。 物忘れをする彼を、私と娘が注意するという会話を。 ちょっぴりイヤな予感を胸に秘めながら、私たち家族はその日も楽しく過ごした。 * そんな彼が若年性アルツハイマーになったと判ったのは、娘が小学1年生になった頃。 医師の診察では、まだちょっとした物忘れがあるくらいの第1期らしい。 「……ごめん」 「何が……?」 娘が学校に行って2人きりになった自宅で、彼が謝る。 「その、こんなコトになって……」 「んーん、謝らないで。まだお仕事に支障が出るレベルじゃないんでしょ?」 「今のところはな。……けど、上司には隠さず言っておこうと思う。下手したらクビになるかもしれんが、症状が進行しない間だけでもやらせて貰うよう掛け合う」 「……そっか。これから大変になるんだよね」 「だから、ごめん」  
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