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『名前未定』は、ちゃんとした訓練の下準備をパピーウォーカーと受けてクリアした。
お手もお代わりもお座りもマスターして、人見知りもしない。
盲導犬候補生がパピーウォーカーと暮らせるのは生後2ヶ月くらいから1歳になるまでの10ヶ月だけ。
でもそれはすごく濃密な時間だ。
なにせ最も甘えたがる時期なんだから。
「おーいでー……スキンシップ取ろー?」
『キューン……キューン……』
「ごめんね、寂しいよね」
候補生はこれから私とこの訓練センターの部屋で共に暮らしてかなきゃならない。
ならない……んだけど。
「キミには新しい名前をあげなきゃいけないの。前のは忘れてくれる?」
『キューン……』
「ダメ、かな?」
仔イヌ(パピー)だった頃の名前はもう呼んであげられない。
候補生はこれから書類上でも扱われる。
順番に割り振られたアルファベットによって。
あ、有名なのはクイールやハラスかな。
あの仔たちはそれぞれアルファベットの『Q』や『H』が与えられて、それを頭文字にした名前を付けられたの。
で、この仔は『K』から始まる名前をプレゼントしなきゃいけない。
「か、か、か……」
しばらく悩み、私は思い付いた。
「Kind! キミの名前は『本質』や『親切』って意味のカインドにしよう! あ、英語っぽく呼ばなきゃダメだから、正確にはカインね」
『クゥン……?』
「これからヨロシク、カイン! 立派な盲導犬になろうね!」
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