MEMORY1/3

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  『名前未定』は、ちゃんとした訓練の下準備をパピーウォーカーと受けてクリアした。 お手もお代わりもお座りもマスターして、人見知りもしない。 盲導犬候補生がパピーウォーカーと暮らせるのは生後2ヶ月くらいから1歳になるまでの10ヶ月だけ。 でもそれはすごく濃密な時間だ。 なにせ最も甘えたがる時期なんだから。 「おーいでー……スキンシップ取ろー?」 『キューン……キューン……』 「ごめんね、寂しいよね」 候補生はこれから私とこの訓練センターの部屋で共に暮らしてかなきゃならない。 ならない……んだけど。 「キミには新しい名前をあげなきゃいけないの。前のは忘れてくれる?」 『キューン……』 「ダメ、かな?」 仔イヌ(パピー)だった頃の名前はもう呼んであげられない。 候補生はこれから書類上でも扱われる。 順番に割り振られたアルファベットによって。 あ、有名なのはクイールやハラスかな。 あの仔たちはそれぞれアルファベットの『Q』や『H』が与えられて、それを頭文字にした名前を付けられたの。 で、この仔は『K』から始まる名前をプレゼントしなきゃいけない。 「か、か、か……」 しばらく悩み、私は思い付いた。 「Kind! キミの名前は『本質』や『親切』って意味のカインドにしよう! あ、英語っぽく呼ばなきゃダメだから、正確にはカインね」 『クゥン……?』 「これからヨロシク、カイン! 立派な盲導犬になろうね!」  
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