MEMORY1/3

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  いきなり新しい名前で呼ばれたってイヌには理解のしようがない。 でも何度かカインに向かって名前を呼び続けると、それが自分を指す言葉だと理解したらしい。 「キミはカイン。今日からそれがキミの名前だよ」 『クゥン……』 あ、吠えないよう訓練されてるんだったね。 私は『ワンッ!』と元気よく吠えるのを期待してたせいか、ずっこけそうになった。 情けない情けない。 * カインと私が出会ってから2ヶ月が経った。 人に対して物怖じしないカインは、他の訓練士とも親しくなった。 世話をしてる私よりなついた相手がいたのは赦しがたい。 腹が立ったのでその日は添い寝の刑に処してやった。 どうだ、参ったか! * カインはハーネスに抵抗が無いみたい。 初めて着けたときも『お散歩?』って自分から外へ出ようとしたくらいなのだから。 でも、そこで私は注意した。 ハーネスを装着してる間は、独断で動いてはいけない。 周りを全力で警戒して、パートナーが安全に歩けるようにサポートするためだ。 * カインが来て1年が経った。 もうハーネスを着けるだけでお仕事モードに切り替わるくらい成長した。 これからは最後の試練! 街に出て盲導犬としてのテストが何度も繰り返され、合格すれば今度は目が不自由な人と信頼関係を築くための新しいトレーニングの日々が始まる。 正直、送り出す覚悟が無い。 パピーウォーカーのみなさんはそんな悲しみを味わったんだなぁ。  
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