序章

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蝉がミンミンとうるさい七月下旬。 俺、相沢光太は汗ばむ額をハンカチで拭きながら、天に届きそうなほどの高さを誇る、都内…いや…世界有数の高級マンションを見上げた。 なぜただの勤め人でしかない俺が、選ばれた者しか住めないという噂のあるマンションの前に立っているのか。 その理由は至ってシンプルだ。 俺の勤め先である、『東都出版』の超売れっ子作家の担当となり、その先生はここに住んでいるからである。 俺の前の担当は、『もう無理! 降りる!』と言って急に辞めてしまい、担当の引き継ぎが中途半端な形となり、俺は今日、挨拶と担当になって初の原稿取りをいっぺんにする羽目になったからだ。
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