序章

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今すぐ回れ右して帰りたい。拭き取ったはずの汗がまた流れ始め、俺は本気で担当を引き受けたことを後悔した。 しかしこのドアの向こうには、テレビドラマ化、映画化は当たり前、出した作品は絶対ミリオンセラーという、出版業界の救世主とも言える作家がいるのだ。 名は『一之瀬啓』。 作品のジャンルは本格ミステリー。 何度かテレビや雑誌で顔を見たことがあるが、モデルや役者にいつでも転職可能なほど、才能と見た目に恵まれた男だ。 だが、先生にはなぜか浮いた話が一つもない。 理由は簡単。 自身の美しさと超売れっ子作家という名声を打ち壊せるほどの気難しい性格だからだ。
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