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「抜けよ」
ドベンネ モリヒの口の端は微妙に吊り上っている。仮面というものは大概こうで、自分に自分以上の何かを抱かせる。
ドベンネのサーベルの先は、青草に尻餅をついた男の腰の物を差している。
「立てよ。そして剣を抜け」
ドベンネのサーベルは次に、青い仮面の眉間を静かに押した。
(ああ、間違いない。こいつの白い仮面は親父の仮面だ、点々とある茶色は模様ではない。こいつはそれを知っているのか?)
挑発された男は怒りに白くなった頭で考えた。
そしてまた、この馬鹿馬鹿しい事態に辟易もしている。
「聞こえないのか? 抜け」
(聞こえているさ)
辟易した男。一旦は立とうとしたのだが、まだ立たない。
腰にぶら下げた鞘の中身を、四日前に地元の質屋に入れた事を思い出したからである。
木製の模造品など、抜くだけで喜劇だ。
──草を踏む三人目の足音がする。
湖畔の別荘の何れかに向かう者であろう。二本のサーベルを胸に抱えた使用人風の男が、争う二人の前を行き過ぎようとした。
使用人風の男は立ち止まり、少しの間、白と青の仮面をいぶかしげに見た。
そして、吐いた言葉は、
「決闘はここですか?」
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