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「これも当然の権利です。国だって認めてます」
国を挙げての一大イベントである《戦争》は、それ故それなりの人権保護政策を打ち出してある。
一定期間とはいえ、脳を使い続けることは大変な労力となる。
兵士、指揮官たる参加者は、職場にその旨伝えることで、例外的に週2日を半休、残り3日を2時間の出勤遅延可として申請することが認められている。
しかしながら、まぁ、結果は見ての通りである。
係長の気味が悪い仏頂面は予想通りながら予測を超えて、心構えをしていたにも関わらず倦怠感が腹にうずくまった。もう、やる気無くす。
こんな時程、勤勉だが和を乱すことを嫌う権威主義の日本なんかに産まれなければよかったと後悔することはない。
権利は、直ぐさまサービス残業に置き換えられる。
だから、育児休暇も取る奴少ねぇんだよ。
「これは、政府も認めている通り、国家の威信をかけた一大プロジェクトです。万全の態勢で臨ませたいからこそ、このような措置が取られるのだと思いますが」
「だからと言って、業務を疎かにしていいものかね」
「今回は、島ひとつかかっているんです」
「それが我々に関係があるか? それとも、その島とやらが我社に何かのっぴきならない利益となるものか」
話しが噛み合わない。
いや、多分噛み合う筈がないのだろう。
俺は宣伝に使われる他人の言葉で喋り、係長は自分を取り巻くフィールドの話をしているのだ。
需要があっても、供給できないこともある。世間の目が許さない時だ。
「とにかく、申請しましたよ。会社は許可を出す義務がある。もし万が一、係長が勝手に話を止められたのなら、俺は課長でも部長でも、下手すりゃ社長でも言ってやる。それでも無理なら、しかるべき所に話を通してもいい」
引く気はなかった。
俺の前に召集された奴は、精神的にも肉体的にも困憊して辞めていった。
会社は何も言いはしなかったけど、あれは恐らく、今まで通りの業務に残業、休む暇のない脳の酷使によるものだと確信している。
にっちもさっちもいかなくなったのか、係長は苦々しく「量は減らさんぞ」と吐き捨てた。
「上等だよ」かかってきやがれ、隠れて口にした筈だったが、にいやり笑った口元を勝ち誇ったとみたか、係長は苛々と新聞を投げ捨てた。
癇癪持ちの子供かよ、ほんと。
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