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担いできたメッセンジャーバックの中から、愛用の皮手帳を取り出す。
ぺらぺらとページをめくってはみたが、なんのことはない。ただ手持ち無沙汰だっただけだ。
内容なんか当に頭に入ってる。
記された場所、誇示するようにそれをなぞり直し、現実へと目を上げた。
用意されたのは会議室。
今日は大事な、プロジェクト会議。
扉を開ける。出来る限り満面の笑みで。
客人は既に窓際に佇んでいた。窓外に流していた目をこちらに振り向ける。その心中はいかに?
「やぁ、」
言いかけて、相手は親しげに手を。
胸に輝くバッジは、ニュースで見慣れた色使い。
「始めまして。ユエ、と申します」
くしゃりと奇妙に映る笑みを浮かべて、青年は笑った。
糸切り歯の目立つ、愛嬌のある顔。
ある一端で戦闘を繰り広げる某国とは、
通商条約も共に結んだ、
絶望する程美しい、
《友好国》である。
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