【常世/とこよ】――撤退戦――

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盛大な音と共に大量の土ぼこりが上がった。 首の後ろから嫌な音がしたと同時、全身を生半可ではない痛みが襲った。 いってぇ! ってか首も背中も、頭もいってぇ!! 口や鼻、露出した穴という穴、敏感な粘膜全てに砂のざりざりとした感覚が。 視界はもはやゼロ。 唯一分かるのは、自分が人間としてありえない形で落下したらしいということだけ。 頭は下だし、ああもう、なんだかな! けほけほ噎せ返りながら、しかしなくならない砂の食感に辟易していると、次第に五感は開けてくる。 舞い上がった赤茶けたヴェールも心なしか落ち着いてきた。 とめどない涙で流しきった視界で見回す。 そこは、塹壕だった。 おぉ、映画みてぇ。 赤土を掘り下げた堀の高さは人一人分。 幅が二人が避けあって通れるくらいで、ところどころ合流し、分かれあいながら四方へと繋がっている。 はたはたと服についた砂を落としていると、どこを踏んだか、「きゅう」と間の抜けた音が落ちた。 視線を下へ。 地面へ転がった鈍色の塊。 銃だ! 驚きに飛び退った先。俺は気づいた。 視界の端を、土壁にしては明るすぎる色が掠めたことを。 「ひっ……人……っ!」 それまで俺が居た真下。 痛々しい唸り声と共に人影が身じろぎした。 「い……ったたたたた……っ。なんなのぉ。一体なにが起こったのよぉ……」 外人のような妙なイントネーション。 すらりと長く大きな手指。 押さえられた額は、すすくれてこそいても怪我をしているそぶりはない。 銃ももちろん、この人のものだろう。 足元に転がったそれは、よく警察ドラマなんかで見る小ぶりな型ではなく、一直線で長い。 所謂小銃という部類のもの。 (後にそれは、短機関銃と呼ばれる物だと教えてもらった) 青年は、かつての俺と同じくしぱしぱと目を瞬かせ、顔を上げて立ちすくむ俺の姿を捉えた。 あっけにとられる顔。 通った鼻筋、白い肌。 二重のぱっちりとした目が見開かれ、灰色の虹彩が大きくなる。 薄いながら赤みを帯びた唇が、言葉を失い絶句する。 驚いたのは俺も同じだった。 思考を停止した脳はまともに状況を処理してくれず、まともに理解できたのはこの青年がいかに整った顔立ちであることかでしかなかった。 悪く言っても美青年。 よく言うならばどこのデルモですか、これ?! (多分、姉貴に言ったら「それいつの時代の言葉!」って大爆笑されるだろう)
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