【常世/とこよ】――撤退戦――

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ひょんな形で張り詰めた空気の中、青年の方が先に口を開いた。 「あなた、誰?」 片言の、子供みたいな口調だった。 こういったとき、なんと言っていいか分からない。 なにより、出会いがアグレッシブすぎる。 まともな思考なんて、いたいいたいと飛んでった! 「えっと……召集で……」 しどろもどろになりながら、なんとかそれだけ搾り出すと、青年は成程察してくれたようで大げさなくらい手を叩いた。 「ニューフェイスの派遣兵!」 「あんだシンドウ、うるさいぞ! 無駄口叩く暇あったら弾幕張れぇ!」 会心の笑みに突きつけられた指は、背後から上がった罵声にかき消された。 振り返る。 二メートル近いであろう巨体が、塹壕から身を乗り出し、手にした拳銃を構えていた。 がきんっ! 上がる断末魔。 耳を劈く音に思わず耳をふさぐも、時既に遅し。 なんとなく詰まったようにぴりぴり篭る。 鉄と鉄の、きしむ音。 火薬だけのお上品なまがい物しか聞きなれない耳に、その重みは痛い。 銃って、こんな酷い音がするんだ。 音っていうか衝撃か。 間髪入れずに所定九発を打ちつくした男が塹壕の底に滑り降りる。 折り曲げないと入りきらない身の上を、敵の放ったものであろう、数多風を切る音が切り裂いていった。 「ったく、キリがねぇな……」 ごちた男は、新たな弾装を取り出して、再び込め直す。 ってか、ホントでかいな。ごついし、ゴジラみたいだ。 ぼんやりそんなことを考えていると、背後から甲高い悲鳴が上がった。 「シンドウのMKーっ!」 劈くような異音。 振り返ると不覚にも足蹴にしてしまった青年が、半分涙目で手にした銃の泥を拭っていた。 あの時大地に転がっていた銃。 「MKがっ、シンドウのMK、銃身が曲がっちゃったのよぉっ!」 「はあっ? 嘘だろ、おい……残された武器なんて、殆どねえぞ……」 「えむけーじゃないと、シンドウ、えむけぇがないと死んじゃうよぉ……!」 ひぃひぃ言いながら喘ぐ姿に、血の気が引いた。 いや……明らかに俺のせいじゃん? それ。 俺があの華麗な落下を決めたせいじゃねえか!
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