【常世/とこよ】――撤退戦――

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そういえば、戦場では自分の命を守るものは、命の次に大事なものだと死んだ爺ちゃん言ってたっけ。 そういう爺ちゃん自身は、緑内障併発してたから、って実は身体検査で落とされた、って死んでからばあちゃんが……ってちげえ! そんな大事なもんを使えないようにしてしまった。 しょっぱなから大丈夫なんだろうか……俺。 ん? ちょっと待てよ。 武器が使えないってことは仲間に守ってもらうしかない。 でも、 「あの……他の兵士の皆さんは……」 気づいてしまった。 おろおろする青年に肩をすくめ、ゴジラがこちらを睨みつける。 「んなもん、いねえよ」 「いな……」 「皆死んじまった。今ここで動けるのは、シンドウと俺。ふたりだけだ」 マジでか――――っ! 叫びたくなった。 「いやーよー! シンドウ死にたくないーっ!」 寸でのところでとどまったのは、件の青年が俺の心を代弁してくれたからだ。 頭上では絶え間なく弾丸が駆け抜けていく。 どうやら敵と距離があるらしく、発砲音が聞こえないのが嫌に恐怖を煽っていた。 空気が切り裂ける音と、バスッと何かにぶち当たる音。 じわじわ迫り来る恐怖は、死への恐れだ。 殺される、殺される。 派兵しょっぱな死亡宣言なんて嫌だぞ俺は! 泣き止まない青年に痺れを切らしたのか、ゴジラが腹の底から怒鳴った。 「えぇい、煩いぞシンドウ!」 そして手を差し出して一つ。 「……ロクヨン式!」 「使え」の一言と共に差し出されたのは、先ほど青年が嘆いていた型とは違う、小銃だった。 途端に、青年の表情が輝いた。 きゃっきゃと手を伸ばし、重厚感のあるそれを軽々抱え上げる。 スライドを開いて作動良好。 銃口覗いて異物確認、慣れた手つきで構えてみては目を細める。 「まぁ凄い! 懐かしい、懐かしい」 「……懐かしいって、お前」 「だって、六十四年製よ? 一九六四年産まれの型でしょう。結構なお年寄りよ」 「ジャパニーズネイビーじゃ今でも現役だぞ」 「ハチキューは?」 「アーミーだけだ」 「へぇ。日本人、物持ちいいのね。ちょっと前まで、お巡りさんはニュー南部使ってた、って聞くし」 「……物量の違いと老朽性で大戦負けたんだろうけどな」 「シンドウ、いいと思うけど。武器についてはそれじゃあだめよね、やっぱり」
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