【常世/とこよ】――撤退戦――

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受け取った銃を片手に、何やら方々いじっていた青年が、うむと一声天を振り仰ぐと、発砲音の切れ間を見計らい、土手から身を乗り出した。 「ごちゃごちゃごちゃごちゃうるさいのよね。ちょっと、だまってちょーだいなっと!」 ばら撒かれる弾丸。耳を塞ぎたくなる風圧と、鉄の軋む音が耳朶を打つ。弾が打ち出される度に銃口付近が赤く染まり、思わず耳を塞いだ俺を慄かせた。 おいおい、小銃ってこんなにすげぇの? 映画なんかじゃ、機関銃でも両手でパカパカ撃ったりしてんじゃん! 射手にくる衝撃も相当なものらしく、大の大人がガッツリ構えているというのに、上体が時折傾いでいる。バラバラと吐き出される薬莢が雨の如く降り注ぎ、土手を伝って俺の頭を直撃した。いてっ! ガチンっ! 鋭い金属音と同時、青年の顔が曇る。しまったの形に歪められた口元が開かれると同時、舌打ちをした巨体がその背を思い切り引きずり込んだ。 始まる集中砲火。土手を滑り落ちてきた青年が、今にも泣きそうな顔で叫んでいた。 「ジャムったのよーっ!」  がちゃがちゃとスライドを引き、弾を取りこぼす。ジャムってなんだっけ? 嗚呼、弾詰まりのことか、とぼんやりと思っていると、頭上高く降り注いでくる発砲音にまたしても縮み上がった。積み上げられた土砂、抉る鉛玉はバスリと鈍い音を立て、土煙が上がる。  身に迫る危険は生理的な恐怖を呼び、沈黙に耐え切れなかった俺は、半泣きそのまま、一番根本的で、一番場違いな問いを舌にのせてしまった。 「あのう……今、一体どういう状況で」  ゴジラの瞳がぎょろりと光る。何を今更、という目は内心痛かったが、それでも答えてくれたのは、やはりというかこちらも半泣きの青年だった。 「この地区は、もう放棄するのよ! わたし達の大隊ぢゃ、支えられないから。主力部隊は今撤退中だから、わたし達がここで踏ん張ってなきゃならないでしょ。ぢゃないと、皆がみんな、全滅よ。でも、今はわたし達のが全滅しちゃいそうなのよぉ!」  そしたら、皆、ジ・エンドね! 吐き捨てた言葉は、かなきり声に近い。そうかと納得したのも束の間、ん? それってヤバイんじゃねぇの?  嫌だよ、俺、初日で死亡とかありえねぇよ! それに案外痛そうだし、これ! 夢なのに現実感溢れてるし!
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