【常世/とこよ】――撤退戦――

9/14
前へ
/193ページ
次へ
 発狂する青年とは対照的に、ゴジラは神妙に頷いている。 「死ぬ時は、皆死ぬに決まっている」 「ヤーなのよーっ! わたし、まだ生きていたいのよっ! 自分で自分が死んでるかどうか確認するなんて嫌に決まってるじゃないの! たっけて、マキネーっ!」  青年が天を仰ぐ。太陽はまっすぐ真上で輝いていた。弾丸が塹壕すらも飛び越え、後方の土手に突き刺さる。  うげぇえ、これ、もう少し角度あったらヤバかったんじゃねぇ? 砕かれた土壁はザラザラと崩れ落ち、俺達の上に降りかかった。  砂の海を掻き分ける。薄ドロドロしていて、気持が悪い。なんだよ、なんだよ、戦場って思ってた以上にえげつないじゃん。酸素を求めて頭上を振り仰ぐと、燦然と輝く太陽をシルエットに、覗き込む人影が。  終わったな。このまま一斉掃射でやられるんだ。  絶望が胸を射抜いた時、人影は怒鳴った。聞きなれた言葉で。思ったより、高い声で。 「ええい、喚くな! みっともないだろうがっ!」 「マキネぇえっ!」  鉄の雨をものともせず、塹壕に飛び込んできたのは少女だった。いや、少女と言うには語弊があるか。二十五、六の女性である。これも見事に薄汚れた彼女は、右手に下げた小銃を放りながら「状況は」と叫ぶ。 「見ての通りだ。そっちは?」 「本隊が、二十三抑止隊と合流するまで後十キロ。十分許容範囲よ。よく保ったってところかしら。急ぎ、私たちも撤退しましょう。奴らに何か言われたら、私がぶっ飛ばしてやる。今使える武器は? 幾つあるの」 「わたしのMKはダウンしたね。生きてるのは、オスギさんのシグ・ハンドガンと、予備のロクヨンくらい。これも、一回ジャムってるから、バリバリとはいかないかもなのよ」 「ふぅん、じゃあ、頼みの綱はコイツだけか」 マキネと呼ばれた女が、背負っていたOD色の袋を下ろす。 現われたのは、銀色の筒。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加