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夢オチというのは、手法的にタブーであるらしい。夢の中では、何でも起こりえる。何でも可能になる。己の物語に夢を持ち出すことは、何よりも愚かで、短絡的で、初心者が起しやすいミスなのだ、と言ったのは、知り合いのネット作家だ。といっても、自称の。
俺は今、現実にその夢オチとやらを体験してしまったのである。いや……うん。夢なんだけどね。
「ありえねぇ」
あんな現実的なものが夢? 信じられん。痛みも気持の悪さもあったぞ、確かに。
くらくらとする頭を抱え、思わず唸ると、視界の端で人影が震える。起そうと身構えていたらしい少女は、対象が突然目を覚ましたことに驚いたのだろう。
起こそうとしていたらしい少女は、しかし対象が突然目を醒ましたことに驚いたのだろう。
「うなされてたから……」と、しどろもどろにしなくてもいい言い訳をした。
少女の小さな心遣いに眠い目を擦りつつ身を起こす。バキバキと不穏な音。うわ、寝たのに尋常じゃなく怠い。
「今、何時?」
「八時。お仕事……遅れないの?」
「うん。今日から、十時出社になったから」
あー……朝飯……。痛む頭を傾け首の筋を伸ばす。俺は抜こうが差し支えないが、この子を飢えさせることはいただけない。仕方ないなぁ、コンビニ寄るか。
俺の態度に何か読まなくていあ裏を読んだのか、少女が焦ったように首を振った。
「そうなの。だったら、起こさない方がよかったのね。うん、今度から――」
「いや、寧ろ起こして。起きそうになくても、遠慮なく叩き起こして欲しいよ。送り迎えとか、あるし」
「えっ……でも」
たじろぐ少女。おいおいこいつ、何処まで気ィつかうんだよ。大和撫子の鏡か。
「この辺、凶暴な犬とか熊とか変質者とか、出るから」
咄嗟に出てきた出鱈目に、我ながら笑った。変質者はまだしも、熊と犬って……。ここだって、一応のところ東京だ。犬は鎖に繋がれているし、熊なんて出たことがなかったが、まぁ寧ろそれがよかったらしい。少女は困惑の色を見せ、最後には了承の意を示す。……最後の単語に反応した気もしないでもないが。
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