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そんな俺の気も知らず、のっぺりとした眼鏡の男は、「戦前の召集令状も、決して赤いとは限らなかったようですがねぇ」と呟いた。
いや、そんな雑学いらないし。
しかし瞳は落ち着きなく、襖の奥へと向けられては外される。
はじめ、ごさごさと散らかり放題の一帯を気にしているのかと思ったが、ややあって気付いた。
奥には、綺麗な黒髪が、無理矢理作られたスペースにふわふわと散っていた。
すよすよと、布団が上下している。
「嗚呼、あれは姉貴の子です。いや、正確には姉貴の子じゃないな……。姉貴の恩師の孫で……大学教授なんですけど、なんか研究が認められたとかで、海外に招待されたそうで、預かってるんです。僕の恩師でもあるんで、面識はあったんですけど」
揺れる小山に目を移す。
面識といえど、姉貴の挙式で仲人として来てくれた教授に連れられて、柱の陰から覗かれた程度だけれど。
相手の目が、だからなんだと探るようにひそめられる。
まぁ……うん、納得できるけどさぁ。
「疑わないでくださいよ? 俺にそんな趣味はない」
わかってた。分かってたさ。
ただ……どうしても押し切られただけだ。
歳が離れていたせいか、昔から兄弟に弱い。
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