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朝一番、件の上司に「風邪ひきました」と適当な理由づけで休みをもぎ取って、学生タイムの、社会人としてはいささか早い時間に家を出た。
市バスでコトコト、いつもは眺めるだけだったスクールバスを追い抜く。
今日は、ついこの間知り合ったばかりの独りが二人。
赤の他人でありながら、兄と妹、若しくはいとこ同士として振舞わなければならない。
一緒に暮らす破目になったとはいえ、どこの馬の骨ともつかぬ男にお嬢様が「兄」と名乗られるのを嫌がらないか心配したが、当の本人は何故だか少し、嬉しがっているらしい。
「ママンのお仕事で、親戚、っていうのは殆どいないの。パパンは元からいないから、ミヅキが知ってるのは、グランパとグランマだけなの」
疑問を隠しきれていなかったのか、少女がこっそり耳打ちした。
こんな他愛ないことで喜ぶ少女を少し不憫に思うと同時、親戚に縁まで切られてしまうこいつのママンとやらは何者なんだ、という疑問が心中渦巻いた。
見るからにお嬢様学校、というこ洒落た門扉をくぐり、集まり始めた生徒と親の集団へと、当たり障りのない挨拶を零す。
皆一様に一瞬ひるんだ後、そらーもうお金持ちらしく、気品あふれる様子で会釈を返してくる。
自分の身を省みて、あ、やべ、ジーンズはさすがにまずった感じ?
向けられる目に気まずさを感じ始めた時、一人の子供が少女に駆け寄り、悪戯っぽく耳打ちをした。
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