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「と、いうことで、許可を下さい」
いつものクセでギリギリに設定した時間は、慌ただしく少女を送るという失態を招き、半泣きのままコンビニで書類を発送して、なんとかかんとか課業時間には間に合った。
奇跡だ。本当に奇跡だ。今日ばかりは神様の存在も信じられるね。
そんな心境。
朝一発目にこんなことを言われて、頭のズレかかった係長は、心底うんざりとした。恐らく、我が姉貴ならば大爆笑で「ハゲ上がってる!」と指をさすだろう。
兄はニタつきながら「嗚呼もぅなぁ、ハゲ散らかして」と目を細める筈だ。
しかし俺は、善良者なのでそんな酷い事は吐かない。
ただ陰で、「毛根バンクがあればいいのに」と言ってみるだけだ。
「お前しかし……所詮、夢だろう?」
探るような目を向けて、係長は鼻で笑った。
「ええ、勿論夢ですよ?」言った後で、少し後悔した。こいつに日本語は通じない。
「夢ですけど、脳は働いてます」
係長は盛大に溜息をついた。周りに聞こえるように。明らかに、確信的に!
「……他のやつの負担が増えるとは思わないのか?」
きた! やっぱりきた。周りにも同意しろとばかりの堂々たる嫌味は、もう、何と言うか予想通り過ぎて逆にげんなりした。
微々たる労力ながら、国にとって重大な意味を持つ戦争は、故にたくさんの有利な法律が付加されている。
国家からの賃金の算出、一部施設での優待、そして勤務時間の短縮。
参加者にとって実に有利なこの仕組みであるが、他の数多ある行政システムと同様、《申請しなければ発動されない》。
俺が願い出たのは、時間短縮。
俺は、降り注ぐ視線の痛みに半ばめげながら、それでもなんとか踏ん張った。
ここで負けては、損をする。苦しむのは自分である。
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