第2回 お題 「足音」

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まぎれもない希の声だった。 「毎晩私が眠ったくらいの時間にウチに来て、何してたの?」 まぎれもない希の声、のはずなのに、いつもと全然違うように聞こえるのはなぜだ。 「初めて気付いた夜は驚いたな~」 そんな風に言いながらも、声からは少しも動揺らしさは聞き取れない。 「ねえ?気づいてた?」 ふふっと笑った声が寒気がするほど妖艶だった。 「私ももうずっと雄一の家に行ってたの。雄一がウチを出たのを後ろからつけて、雄一が眠るのを待って家に入るの」 気づかなかった。 自分も同じことをしておきながらも、なぜかゾッとした。 希の表情が見えないせいだろうか。 「…何しに…?」 「なんでだろうね?寂しかったのか、雄一の寝顔見たかったのか、ただの仕返しか…。」 突然、希が明かりを点けた。 僕は一瞬目が眩んだが、すぐに慣れた。 希は僕のすぐ横に座って、起き上がった僕をまっすぐに見た。 澄んだ瞳の中に僕が見えた。 小・中・高と同じ学校だったのは、狭い田舎町では半ば必然だった。 告白なんて大それたことできはしなかったけれど、希のことをずっと気にかけていた。 長い長い片思いだった。 高校3年の春。 家業を継ぐことは家では暗黙の了解だったため、進学はしないはずだった。 それなのに希が県外の大学に行くと噂に聞いた途端、僕は感じたことのない衝動に駆られた。 離れたくない。 側にいたい。 たとえ僕のものにならなくても。 両親には反対されたが、押し切るように進学した。 大学で親しくなってから、僕が希の家に通うようになるのに時間はかからなかった。    タガ 一気に箍が外れたようだった。 僕の人生は勢いをつけて甘く狂っていった。 でも何1つ後悔していない。 それはいま目の前に希がいるからなんだろうか。 僕らの関係は誰にもわかってはもらえないのかもしれない。 僕自身、来年、僕らがどうしているのか想像すらつかない。 いつか後悔する日が来るんだろうか。 でもどんなことも関係ない。 僕らは一緒にいる。 それだけが今、大切だった。
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