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まぎれもない希の声だった。
「毎晩私が眠ったくらいの時間にウチに来て、何してたの?」
まぎれもない希の声、のはずなのに、いつもと全然違うように聞こえるのはなぜだ。
「初めて気付いた夜は驚いたな~」
そんな風に言いながらも、声からは少しも動揺らしさは聞き取れない。
「ねえ?気づいてた?」
ふふっと笑った声が寒気がするほど妖艶だった。
「私ももうずっと雄一の家に行ってたの。雄一がウチを出たのを後ろからつけて、雄一が眠るのを待って家に入るの」
気づかなかった。
自分も同じことをしておきながらも、なぜかゾッとした。
希の表情が見えないせいだろうか。
「…何しに…?」
「なんでだろうね?寂しかったのか、雄一の寝顔見たかったのか、ただの仕返しか…。」
突然、希が明かりを点けた。
僕は一瞬目が眩んだが、すぐに慣れた。
希は僕のすぐ横に座って、起き上がった僕をまっすぐに見た。
澄んだ瞳の中に僕が見えた。
小・中・高と同じ学校だったのは、狭い田舎町では半ば必然だった。
告白なんて大それたことできはしなかったけれど、希のことをずっと気にかけていた。
長い長い片思いだった。
高校3年の春。
家業を継ぐことは家では暗黙の了解だったため、進学はしないはずだった。
それなのに希が県外の大学に行くと噂に聞いた途端、僕は感じたことのない衝動に駆られた。
離れたくない。
側にいたい。
たとえ僕のものにならなくても。
両親には反対されたが、押し切るように進学した。
大学で親しくなってから、僕が希の家に通うようになるのに時間はかからなかった。
タガ
一気に箍が外れたようだった。
僕の人生は勢いをつけて甘く狂っていった。
でも何1つ後悔していない。
それはいま目の前に希がいるからなんだろうか。
僕らの関係は誰にもわかってはもらえないのかもしれない。
僕自身、来年、僕らがどうしているのか想像すらつかない。
いつか後悔する日が来るんだろうか。
でもどんなことも関係ない。
僕らは一緒にいる。
それだけが今、大切だった。
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