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まどろみの中、ショウが口を開く。
「お袋がさ、倒れたんだ」
「え?」
慌てて起き上がってショウの顔を見たら、眠たげな目をやんわりと細めた。
「いや今は全然大丈夫なんだけどさ。俺がデキたのって割と遅かったから、お袋も親父ももう結構な歳なんだ」
自分の横をポンポンと叩いて、起き上がったままだった私に笑いかける。
仕方なく私は平静を装うように、またショウの横に寝そべる。
「一人息子だったのに俺が東京に来るのも快く許してくれてさ…そろそろ親孝行しなきゃなって思ってさ」
途端、鈍く重く胸が痛くなって涙が出そうになった。
慌てて寝返りをうつみたいにショウに背を向けた。
「マユ?寝ちゃった?……おやすみ」
ショウは私の首筋に優しくキスすると、しばらくして小さな寝息をたてはじめた。
私は母から逃げた。そして亡くした。
もう一生、母に会うことはできなくなった。
私が逃げて守れなかったものに、ショウは向き合って守りに帰る。
どんなにショウを想う気持ちが大きくなっても、引き留めることなんかできるはずなかった。
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