第1回 お題 「縁日」

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今日、ショウは福岡に帰った。 朝までショウの家で一緒にいた。 ガランとした、あとはショウの手荷物だけの部屋。 「そういえば今日、縁日だったのに。出発があと1日遅かったら一緒に夜店も回れたのにね。」 冗談を言うみたいに笑って見せた。 辛くなんかない。 愛してなんかない。 「笑ってよ、マユ」 そう言ってショウは大きな手で私の頬を包む。 「笑ってるじゃん」 「俺、マユの笑顔が好きだよ?」 ショウは寂しそうに笑う。 見透かすみたいなショウの目がなんだか怖い。 隠すのが下手なのは十分自覚してるから、行かないでと思わず言いたくなる。 「私は苺飴が好き!」 「何?祭り?」 無理やり変えた話題に、ショウはいつもみたいに笑う。 「俺は断然、イカ焼きだな」 「ショウは甘い物だめだもんね」 「マユは甘い物に目がないもんな」 やっと私も自然と笑えて、お別れもなんとか笑ってできる気がした。 「そろそろ行かなきゃ」 一緒に家を出る。 「マユ」 私の名前を呼んで、ショウが腕を広げる。 こんなに泣くのを我慢してるのに、どうしてそんなことするんだろう。 私が渋っていると「マユ」またショウが私を呼ぶ。 仕方なく胸に飛び込む。 ぎゅっと抱きしめられたかと思うと、すぐに離されて、「行くわ」真っ直ぐな目で言われた。 「うん。」 泣くな!泣くな!泣くな! 強く言い聞かせて、喉にせり上がってきたものを無理に飲み込んだ。 歩きだしたショウの背中から目が離せなかった。 一回だけ振り返って、私を見て笑って、曲がり角を曲がった。
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