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後ろを振り向こうとしたが、八雲の言葉が反芻した。
「後ろを振り向いてダメなんだよな」
樋口は後ろの足音を気にしながらも歩いていった。
前方から猫がとことこと歩いてきた。暗闇に浮かぶ目がギロリと樋口を睨んでいた。
家が見えてくると、風が強くなり木々がざわざわと音を立てる。フクロウの鳴き声が、明朝の街に溶けていく。
階段を上ろうとすると、102号室のドアが開き大塚さんが寝起きの目を擦りながら出てきた。髪はボサボサで、いつも着用している工場服をだらしなく着こなしている。
「あっ、大塚さん。おはようございます」
「ん、あぁ樋口君。おはよう、早いな」
大塚さんはポストから新聞と数枚の葉書を取出しながらそう言った。
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